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生きることを覆う色 

アーサーとアゼルのお話し。
アゼルはバーハラの戦いには出ておらず、ティルテュと落ち延びたという設定で。

非常にシリアスで、ある意味ダークな話です。
続きからどうぞ。

Φ生きることを覆う色Φ


 お袋と妹がさらわれてから、俺と親父がシレジアの隅っこに住み着いたのはいくつの時だったか。
 気付けば親父の真っ赤な髪は茶色に変わっていて、幼心に不思議に思っていたものだ。
 けれど今は、その理由がわかる。


「こんにちは、アーサーくん。今日も寒いわねえ」
 俺がとある買い物を終えて家路についていたときだ。ばったり、小さな籠を持った村のおばさんに出会ったのは。
「どうも。本当、寒いですね」
「こう寒い日ばっかり続くと、今年の夏が心配だわ……ああ、はいこれ。こないだのお礼」
 愚痴をぼやいて、何かと俺たちの世話を焼いてくれるおばさんは、持っていた野菜籠を俺に差し出してきた。
「いいんですか?」
「もちろんよ、もらってちょうだいな。いつも炎をくべらせてしまって、悪いわねえ」
「いや、それくらいしかできないですから」
 閉鎖的な村人となじむために親父がしたこと、それは、すぐに湿って使い物にならなくなる薪に魔法の炎を着け、村人たちの家の暖炉を暖めてやることだった。
 髪を茶色に染めているものの、親父はヴェルトマー、紛れもない炎の血筋の家系だ。魔の炎は風精たちにあおられ、大きくなり、生半可なことでは消えない。親父は尊敬のまなざしを浴び、俺たちはすぐに村人たちと打ち解けていった。
 だけどその役目も、今では俺が担っている。が、まだ魔力の調整が上手く出来ていない俺の炎は、親父のそれに比べると不安定で、たまに火花が衰えてしまうことがあった。なので、村人の家を一軒一軒回り、暖炉の炎を確認するのがもっぱらの俺の日課になっている。
「それよりどうなの? アゼルさんの体調は」
「ああ……」
 心配そうな面持ちで訪ねるおばさんに、俺はなけなしの――それでもこの村で採れる分としては多い方だ――野菜が入った籠を見つめて、
「少しずつ、よくなってます」
 微かに笑って、苦しい嘘をついた。


 おばさんに礼を言った後、軽く雪が降ってきたのに気付き、俺は駆けるようにして家に戻った。
 シレジアの冬は寒く、その粉雪はあばら屋に容易に滑り込む。もし家の暖炉の火が消えていたと思うと、自然に足は速まった。
 村の外れに立てられた、物置にも似た小屋。その立て付けの悪い扉を勢いで開けて――
「お帰り、アーサー」
「……親父?」
 入ったと同時に同時に寝台にいるはずの親父の姿が見えて、俺は驚いた。
 昔と変わらない穏やかな笑顔とは裏腹に、あまりにも変わってしまった、痩せた体。元々親父は細身だったけれど、最近ますますその衰えは激しくなっている。
「おい親父、寝てないとだめだろ」
「大丈夫だよ。天気もいいし」
「天気がいいから余計に寒くなる、そう言ったのは親父じゃないか。それに雪が降ってきたんだ。寝てろって」
「じゃあ、暖炉に火をつけてから……」
「だめだって! 火も俺が着けるから!」
「アーサー、お前だんだん母さんに似てきたなあ」
 確かにお袋は怒鳴ってばかりだったが、それは愛情からくるものだと俺はちゃんと理解していた。そして、親父もきっと。
「母さんは、あー……血筋もあるだろ。怒りの。いいからほら早く、寝ろよ」
「いや」
 親父は軽く頭を振って、髪の生え際をあらわにした。
 そこには、俺が見慣れた真紅の色がある。
「ほら、そろそろ髪を染めなくちゃ」
 親父の言葉に、俺の顔は強張ったに違いない。
「お願いできるかい、アーサー」
 とても静かなその声に、それでも俺はあらがえなかった。
「……野菜。片付けた後にな」
 だからそれまで寝てろよ、と俺は親父の肩を叩いて、火の消えかかっている暖炉へしゃがみ込む。
 暖炉に微かに残る灯火の消え方が、なんだか無性に親父の姿とだぶついて、余計に腹立たしくなった。

  § § §

 また、この時間が来た。
 親父を苦しめる時間が。
 俺は親父を椅子に座らせ、その膝に毛布を掛けてやってから準備を始める。
 分厚い革の手袋を、茶色の染みがこびりついたそれを何枚も、何枚も重ねて、俺は裏商人から買った髪染め用の粉の袋を開けた。
 途端、部屋中に満ちる刺激臭。鼻に突き刺さるようなこの臭いは、染め粉に混ざった薬物の臭みだ。
 一般的に、染め粉というのは地肌に付着すると毒となる。その匂いだけでも吐き戻す人間もいるほど、強烈な成分が含まれていることから、禁制品として定めている国もいくつかあるらしい。
 俺がそのことを知ったのは、親父がこれを使い、自分の髪を染めていると俺に明かしたときだった。

(赤い髪を持つ人間を、シレジアの人はきっと憎むだろうからね。だからこれを使うんだ)

 親父は自分の手で、自分に毒を塗っていたのだ。
 少しずつ痩せていき、たまに咳き込んだり、苦しげなうなり声を上げたりしていた理由。そして何故、親父の髪が茶色なのか、そのとき俺はすべてを知った。
 全部、俺を守るためなのだと。
 帝国のアルヴィス王を兄に持つ親父の髪は、今では悪名高きヴェルトマーの血筋を表す真紅。帝国軍を敵視しているシレジアの民からすれば、これほど憎みやすい対象もないだろう。
 だから親父は、アゼル=ヴェルトマーという存在を塗りつぶすために、己を毒で覆ったのだ。
 幼く、未だ炎を安定して扱うことの出来ない俺を、かばうためだけに。
 大きかったはずの親父の背中は板のように細く、それでも目を背けることもできなくて、隠すようにその肩へもう一枚毛布を掛けた。
 俺の掌には、こんもりと乗っかった髪染めの染め粉。
 水で粘土状になるまで溶かし、ぱさついた親父の髪に塗っていく。なるべく地肌につかぬように、けれど奥まで、きちんと染まるように。
 手慣れた所作に自分の業を感じる。毒を手にし、親の髪を染める息子。親を殺す子供。そうだ、俺は罪人なんだ。
 ――こんな姿をお袋たちが見たら、どう思うだろう。
 俺は震えそうになる手をごまかして、黙々と作業を続けた。
 火の粉が上がる音も、あばら屋の窓を激しく風の勢いにかき消され、消えていく。
 暖かい水すらもすぐに凍らせる、冷たい、冷たすぎる風。
 桶に入った湯が冷めないうちにと、俺は手早く髪を染め、洗う作業に入る。
「ちゃんと染まったかな」
「ああ、大丈夫だ」
 何が『大丈夫』なんだ。自分で言っておきながら笑いたくなった。
 親父を死に至らしめる行為を続けていくことが、平気?
 親に毒を塗る日々を送ることが、平気?
 そんなはずあるか。
「……もういいよ、親父」
 暖炉の前で親父の前髪をぬぐいながら、俺はつと、本音を漏らした。
「怖くないんだから、俺は」
 俺が本当に怖いのは、この拷問と呼べる時間だ。
 親父がヴェルトマーの血筋であると知ったら、村人たちは激怒するだろう。俺たちを追い出すに違いない。下手をしたら、殺される可能性だってある。でも、ばれる前に逃げおおせたら? それなら何も問題はない。
 親父に近付く死から、逃げられる。
「俺は別に、親父が、ヴェルトマーの人間だって知れても」
「だめだ」
 肺腑からすっと吐き出されたかのような言葉に、俺ははっと親父の顔を見た。
 穏やかな声には、それでもあまりの気迫が込められていて、茶色の髪をしている親父はそれでもやはり、炎の激しさを持つヴェルトマーの血縁者だということを理解させるには容易い。
 その強さ以上の優しい、優しすぎて悲しくなる笑顔を浮かべ、親父は俺の頭をくしゃりとなでた。
「僕はお前を最後まで守る。それは僕が、父親としてお前にしてやりたいことなんだよ、アーサー」
「……親父」
 厳しくも暖かい言葉に俺は思わず泣き出しそうになり、自分のふがいなさにうつむく。
 風の音、炎の音、激しく動揺する鼓動の音、全部がない交ぜになって、俺の心を締め付けた。
「……ごめんなアーサー。お前にこんなことをやらせてしまって」
 ――何でアンタが謝るんだよ。
 畜生と、つぶやきうなだれた俺の頭を、痩せた指が優しくなでていく。
 謝りたいのは、無力な俺の方だっていうのに。


 俺は親父を殺していく。
 親父の言うままに、毒をぬって、血筋を汚して。
 そうすることが親父の望みで、親父が決めたことなのだというのなら、俺もそれを背負っていこう。親父の今までの決意を、覚悟を無駄にしないために。それしか俺には出来ない。
 父親の命を削る、そんな不毛で罪深い日々の中、やるせない怒りと悔しさは激しく俺の心に焦げ付いて――
 しかしそれが、炎精を操る堅固な鎖となったのには、俺は皮肉としか思えなかった。

  § § §

 ――炎を自在に操れるようになって、少し経った後。
 その夜はやけに静かで、ある意味親父が眠りにつくには、ふさわしい日だったのかもしれない。
 血を何度も吐き零し、床を血だまりにした親父は今、浅い息をしながら寝台の上で横たわっている。
 親父を取り囲む炎精たちが、一つ、また一つ、まるで爆ぜるようにして消えていくのは、篝火が衰える様によく似ていた。
「死ぬなよ、親父」
 目に見えて近付いてくる親父の死に、それでも。
「俺の魔力だって安定した。後はお袋とティニーを探すだけだ。そしたらまた、家族みんなで暮らせる。だから……」
 それでもそれを認めたくなくて、遠くに逝かないように手を強く、強く握る。
「だからさ、親父……なあ」
 俺のせいで細く、枯れ枝のようになった指が、ほんの少し動き、それに答えた。
「……父さん」
「アーサー」
 親父は多分、もう見えていないだろう瞳で俺の方を見ると、いつものように穏やかに、柔らかく微笑む。

「ありがとう」

 それが親父の――アゼル=ヴェルトマーの最期の言葉になった。


 ……翌日、俺は村人たちの手を借り、親父を埋葬した。土葬ではなく、俺の炎で。それが俺に出来る、最後の孝行だと思ったから。
 それからすぐ、村を出た。急な出立に村人たちは戸惑い、引き留める声もあったが、これ以上好意にばかり甘えてはいられない。俺はお袋と妹を助け出し、全てを告白する義務がある。俺は『アゼルの息子』だから。
 俺にとって親父は最後まで『俺と妹の父親』で、『母親の夫』だった。
 ヴェルトマーという名立たる血を捨て、炎の意思を捨て、それでも俺を慈しんでくれた親父のことを、俺は忘れない。
 俺が父親を死に追いやったことも忘れない。
 そして、親父の偉大な決意を、忘れられなんかしやしない。


 ――裡に秘めた炎だけを頼りに、俺は真っ白な雪道を独り、歩き始めた。














***【人の親としての役割】を果たすべきか、それとも【それよりも大きな役割】を果たすべきか。
   アゼルとレヴィンの違い。運命の違い。
   そしてそれはアーサーとフィーの違いになっていくんだと思います。

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2010/03/19 Fri. 16:46 [edit]

Category:  ▲その他

Thread:二次創作  Janre:小説・文学

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